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生命誕生の謎に迫る、40億年前の痕跡 東大が発見

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 46億年の歴史をもつ地球で、生物がいつどのように出現したのかは、謎に包まれたままだ。日本の研究グループは2017年、約40億年前にできたカナダの地層で最古の生物の痕跡を発見した。これまで最も古かった38億年前をさらに2億年さかのぼるという。謎の解明を目指し、初期の生物を追い求める研究が、世界で熱を帯びてきた。

 岩石を割ると黒い点が見つかった。グラファイトと呼ぶ小さな炭素の塊だ。大きさは数十~数百マイクロ(マイクロは100万分の1)メートル。専門家でないとただの模様か汚れにしか見えない。しかし東京大学の小宮剛准教授は大発見だと確信した。「この地層で当時、生物が住んでいた証拠だ」。まだ断定はできないが、太古の海洋に生きていた原始的な細菌「メタン生成菌」の可能性がある。

 ここはカナダ東部のラブラドル半島だ。小宮准教授は同半島の約40億年前にできた堆積岩の地層「サグレック岩体」に目を付けた。11年から3年間、雪が無くなる夏に訪れ、地質調査と生命の痕跡探しを続けた。最も近い町から300キロメートル以上離れ、周辺には野生のシロクマもいる。現地の人を警護役に雇う、命懸けの調査だった。

 生物だったと分かる化石は、約35億年前以降にできた地層に限られる。それ以前の生物については、今回のグラファイトのような痕跡を詳しく調べるしかない。

 元素には性質は同じでも重さが少しだけ違う「同位体」がある。炭素の場合、ほとんどが炭素12だが、重い炭素13もわずかにある。生物は周辺から二酸化炭素などを通じて炭素を取り込んだとき、軽い炭素12を優先して使う性質がある。生物の内と外で炭素12と炭素13の比率にずれが生じる。この違いを精密に分析する方法に詳しい佐野有司東大教授らと協力し、カナダで見つけたグラファイトは生命の痕跡だと判断した。

 これまで最も古いといわれた生物の痕跡もグラファイトだ。東北大学デンマークコペンハーゲン大学の共同研究グループが13年、グリーンランドで見つけた。37億~38億年前と推測されている。

 自信を抱けるもう一つの理由がある。こうしたグラファイトがメタン生成菌の痕跡とよく似ていることだ。

 東京工業大学のグループは06年、オーストラリア西部の約35億年前の地層からメタン生成菌が生きていたとみられる痕跡を見つけた。岩石に中に残された気泡に少量のメタンが残っていた。メタンの中の炭素の同位体の比率を調べると、生物の活動の結果と分かった。カナダで見つけたグラファイトも、炭素同位体の数値から生物だったことは間違いないだろう。

 46億年前に誕生したばかりの地球には、微小な惑星が次々に衝突していた。大気には二酸化炭素や窒素のほか一酸化炭素やメタンも多く含まれていたと考えられている。

 原始の海は約43億年前に現れた。当時の海水に酸素は乏しく、二酸化炭素やメタンが多く含まれていた。鉄やニッケルなどの金属もたくさん溶けていたとみられる。

 溶けていた金属を触媒に有機物が合成され、やがてアミノ酸核酸など生物の構成に欠かせない材料が作られたというのが、生命誕生の有力なシナリオだ。多くの研究者はメタン生成菌が、誕生の瞬間に最も近い生物に違いないと信じている。

 その一端を、東工大海洋研究開発機構などのグループが協力して証明した。インド洋の深海の、熱水が噴出する場所で生きるメタン生成菌を採取、原始の海洋の状態を再現して育てた。外部からエネルギーを得る反応ができ、窒素を含むたんぱく質やDNAを作って子孫を残せるのか。実験の結果、メタン生成菌に窒素を取り込む反応は可能だと分かり、その後の生物の進化に向け、重要な役割を果たしたとみられる。

 ただ、カナダのサグレック岩体は、かつて熱水を噴出するような場所ではなかった。熱水のない場所でもメタン生成菌が生きていけるほど、生物の進化が進んでいた可能性もある。小宮准教授は「もっと早く生命は誕生していたのかもしれない」と推測する。

 最古の生物の探索は世界で活発だ。英国のグループは17年、カナダの別の地層で約42億年前の生物の痕跡を見つけたと発表した。年代の測定法などに異論があり、まだ正式に認められていない。

 小宮准教授は同じ地層で調査を始める計画だ。新たな痕跡を見つけて、さらに時代をさかのぼれないかと期待を寄せる。太古の地球の姿と、生命誕生の謎を探る挑戦は、まだまだ続く。

(科学技術部 福井健人)

2018/5/5 6:30     日本経済新聞 電子版