今日のニュース

気になったニュース

ボルト、ラストランの悲劇 待ち時間が影響か 世界陸上

f:id:obaco:20170813193351j:image

男子400メートルリレー決勝で足を痛めトラックに転倒するボルト(右)。左上はバトン=池田良撮影

 希代のスーパースターのラストラン。有終の美の疾走を期待した世界のファンは、悲劇的な結末を目撃することになった。12日にロンドンで行われた陸上の世界選手権男子400メートルリレーで、ジャマイカのアンカー、ウサイン・ボルトが左脚にけいれんを起こし、まさかの途中棄権に終わった。
 ボルトは5連覇を狙ったジャマイカの最終走者だった。英国、米国を追う展開でバトンを受け取り、直線で加速しようとしたところで、突然、195センチの体に異変が起きた。苦痛に顔をゆがめ、それでも懸命にゴールをめざそうとしたが、倒れ込んだ。地元英国の金メダルに沸く大観衆のスタジアムには、トラックでうずくまるボルトに起きたアクシデントへのどよめきが重なった。

f:id:obaco:20170813193716j:image

男子400メートルリレー決勝で足を痛めたアンカーのボルト(右から2人目)は裸足でゴールまで歩き、歓声に応えた=池田良撮影

 今大会を最後に現役を退くと宣言していた。開幕前、300人以上が詰めかけたロンドンでの記者会見で強気に言い放った。「100%の自信がある。レース後の見出しは『無敵』、『誰も止められない』だ。みんなメモしておけよ」

 「一番好き」という200メートルの出場を回避し、個人種目は100メートルに絞ったが、銅メダルで3連覇を逃していた。見納めとなるリレーでは、これまでは出場を「免除」されていた予選から珍しく走った。朝から自分の最後の雄姿を目撃しようと詰めかけてくれるファンへの気遣いもあっただろう。

f:id:obaco:20170813193814j:image

リレーメンバーとファンに感謝のメッセージを送ったボルトの投稿。インスタグラムより

 予選のあと、「朝から走ることなんてないけれど、観衆の絶大な声援は言葉で表現できないくらいだ。感謝の気持ちでいっぱい」と話していた。午後9時50分から予定された決勝前も、サブトラックにいるときから、見守るファン声援に応え、他国の選手仲間とじゃれあうリラックスした光景が見られた。

 何が「史上最強のスプリンター」のアクシデントを誘発したのか。

 取材ゾーンで、銀メダルだった米国選手がレース前に長時間、寒い中で待たされて体が冷えてしまったと明かした。英メディアによると、ジャマイカチームの同僚で、3走を走ったヨハン・ブレークは大会の運営サイドに不満を漏らした。

f:id:obaco:20170813193911j:image

男子400メートルリレー決勝でアンカーのボルト(中央)は足を痛め顔をゆがめた。これがラストランとなった=池田良撮影

 レース直前に二つの種目の表彰式があった関係で、「僕らのレースは10分遅れた。待機場所で40分も待たされた」。この夜、ロンドンは長袖が必要な気候だった。実際、ボルト本人もブレークに長時間の待機について不満を漏らしたという。「これは、おかしいよ」。待たされている間、幾度もウォーミングアップをしたものの、万全のコンディションでは臨めなかったというのだ。

 「真の伝説、王者があんな風に苦しむ姿を見ることになるなんて……」と2011年世界選手権100メートル王者のブレークは憤りを口にした。

 トラックに倒れ込んだボルトは、用意された車いすに乗ることを拒んだ。時間をかけ、リレー仲間の手を借り、足を引きずり、苦痛に顔をゆがめながらもゴールまで歩ききった。ランナーとしての最後の意地がのぞいた。そして、また倒れこんだ。

 銅メダルに終わった5日の男子100メートル決勝後には、鳴りやまぬ拍手のなか、ゆっくりとトラックを1周し、フィニッシュラインに戻ると、名残惜しそうにトラックにキスをした。ボルトの代名詞である弓を引くような、おなじみのポーズも披露して喝采が沸いた。

 しかし、正真正銘のラストランは大観衆に応えることもなく、取材ゾーンでの対応もなかった。ジャマイカチームの関係者に聞くと「ボルトはもう帰った。コメントはない」。国際陸連の広報も当惑気味に言った。「今夜は記者会見も何もない。明日になったら記者会見をするかもしれないが、まだ未定だ」。伝説を締めくくるには、寂しすぎる幕切れだった。

 ボルトはレース後の深夜に、写真共有のSNSであるインスタグラムをアップした。その写真はゴールにたどりつけずに倒れ込んだボルトが、3人のリレーメンバーに助け起こされる場面の写真だった。メッセージが添えられていた。

 「僕の仲間たち、ありがとう。僕のファンに無限の愛を」

2017年8月13日19時24分    朝日新聞デジタル