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香港返還20年 紅く染まる「自由都市」

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中国人民解放軍の駐香港部隊を閲兵する中国の習近平国家主席(30日、香港)=小川望撮影
 7月1日、香港は英国から中国に返還されて20年を迎えた。海外と中国を結ぶ中継地として発展したが、米国に次ぐ経済大国に成長した中国にとって香港の経済的な重要性は低下。習近平指導部は政治・経済の両面で香港の統制を強めている。中国の主権下で唯一、法の支配や言論の自由が保障された「自由都市」は紅(あか)く染まり、輝きはあせつつある。

 香港島金融街、中環(セントラル)に中国本土の金融機関が相次いで進出している。上海と香港の証券取引所間で株式相互取引が3年前に始まり、香港への投資需要が高まった。大手不動産のJLLによると、2017年に中環で契約されたオフィス面積の52%は中国企業が借り主だ。

 中国企業はカネに糸目をつけず、一等地のビルを好む。中環のオフィス賃料はロンドンやニューヨークの1.5倍に高騰。家賃負担に耐えかねた米欧勢は郊外へと移った。「染紅」。中国資本の香港進出は地元でこう表現される。

 海外企業にとって香港は中国に直接投資するときの経由地として機能してきた。だが、15年は中国から香港への直接投資額が898億ドル(約10兆円)に上り、香港から中国への投資額(864億ドル)を初めて上回った。「走出去(海外に出よ)」。中国企業グローバル化を加速し、資金の流れは逆転し始めた。

 この20年で起きた最も大きな変化は、中国の急速な経済成長だ。香港の域内総生産(GDP)は1997年に中国の18%に相当したが、15年には3%弱に低下。都市別でも上海や北京に追い抜かれた。

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 中国の経済力に魅せられた海外企業は、香港を経由せずに、中国本土と直接取引する傾向を強める。その象徴がモノやヒトの流れの変化だ。

 香港は物流の中継港として世界一のコンテナ取扱量を誇った。だが、深圳や広州など同じ珠江デルタにある中国の港湾に直接入る船が増え、世界5位に低下した。キャセイパシフィック航空は香港をハブとして世界と中国を結ぶビジネスモデルが変調し、8年ぶりの赤字に転落した。

 国際金融センターとしての存在感も陰りが見え始めた。17年上半期の新規株式公開(IPO)による資金調達額で香港は69億ドルとなり、上海(110億ドル)や深圳(71億ドル)に抜かれ、世界4位に転落。中国当局がIPOの承認手続きを早め、中国企業は国内に回帰している。

 香港がニューヨークやロンドンとIPOの世界トップを争ってきた原動力は中国企業だった。香港取引所の上場株の時価総額に占める中国企業の比率は63%と、香港企業の30%を大きく上回る。

 中国は海外との資本取引に厳しい規制が残り、市場のルールも安定しない。通信や金融など大型の国有企業が上場先に香港を選んだのは、英米法や国際会計基準を採用する香港市場でなければ海外の資本を呼び込むのが難しかったためだ。だが、中国政府が資本自由化への歩みを進めれば「上海にできない金融取引は10年以内にはなくなる公算が大きい」(欧州系金融機関の幹部)。規制の壁がなくなるとき、香港の金融は海運と同じ運命をたどりかねない。

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 返還当初、中国は香港経済の重要性を尊重し、香港の政治には原則不干渉の立場をとった。だが習指導部は国家主権を最優先し、香港に高度な自治を保障した「一国二制度」を露骨に揺さぶる。中国共産党に批判的な書籍を扱った香港の書店関係者を中国本土に拉致したことは法軽視の象徴とされ、摩擦は強まる。

 「香港と中国を差別化するのは、法の支配だ」。香港の大手商社、利豊の馮国経・名誉会長はこう語る。統制を強める中国から最後の砦(とりで)ともいえる司法システムを守り、透明性の高い市場を保てるかが香港の未来を左右する。(香港=粟井康夫)

 2017/7/1 1:36    日経新聞