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市場に影差す「アベグジット」の難問 編集委員 滝田洋一

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参院予算委で答弁する安倍首相(24日午前)

 「アベグジット(Abexit)」。内外の市場では「ブレグジットBrexit)」にひっかけ、安倍晋三政権の動揺を懸念した造語が、ささやかれだした。

 欧米の政治が揺れるなか、ひとり安定を誇っていた日本の安倍政権。それなのに、「ブルータスよおまえもか」というのが、日本株に投資してきた外国人投資家の偽らざる本音だろう。

 森友学園問題の拡大につれて安倍政権が、足をすくわれだしているからだ。問題が広がりを見せた3月に入り、外国人投資家による日本株の売越額は第3週末までに1.5兆円近くにのぼった。

 「バイ・マイ・アベノミクス」。安倍政権では首相が先導役になり、経済再生と株式市場のテコ入れに力を入れてきた。外国勢はこうした「エクイティ・ストーリー」に乗って、日本株を買い越してきた。それだけに政権が「政治的資本」をすり減らすと見るや、流れが変わってくる。

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 市場が意識するのは、第1次安倍政権の失速だろう。不祥事による閣僚の相次ぐ辞任、消えた年金問題への対処の遅れで批判が高まり、内閣支持率は急落。2007年7月の参院選自民党は大敗し、同年9月には安倍政権も発足から1年で退陣を余儀なくされた。

 それ以降、12年12月に第2次安倍政権が誕生するまでの5年あまり。民主党(現民進党)への政権交代を含め、日本は1年ずつの内閣交代を繰り返した。その間、08年9月のリーマン・ショック、11年3月の東日本大震災という大きなショックが日本を襲う不運も重なった。

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 結果として経済は落ち込み、株式市場も低迷した。失われた20年と呼ばれるバブル崩壊後の経済低迷のなかでも、07年9月から12年12月までの5年あまりがとりわけ厳しかったのは、ほかでもない。

 暗夜行路のように経済の先行きが読めないなか、企業や家計が投資や消費を控えたからだ。おまけに日本の政治的な発信力が地に落ちたことで、金融・為替市場で日本がしわ寄せを被った点も無視できない。

 典型例はリーマン・ショック後の通貨安競争。当時のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は大胆な量的緩和に踏み切ったが、大きな狙いはドル安による輸出のテコ入れだった。オバマ政権はそのFRBに乗った。

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 当時の日本は民主党が明確な通貨外交を持ち合わせず、白川方明総裁時代の日銀は金融緩和に競り負けた。結果的に円高とデフレ不況が深刻になり、リーマン・ショック震源地でなかったにもかかわらず、日本の景気と株価は置いてけぼりを食わされた。

 アベノミクスの最大の成果を上げるとすれば、大規模な金融緩和を通じて、円高是正を実現したことだろう。外国勢が日本株に矛先を向けたのも、デフレ不況からの脱却という明確なメッセージを評価したからといえる。

 「アベグジット」。この言葉に欧州の在日外交関係者はぴくりと反応した。リスクを外国人投資家が意識するとすれば、国会での法案審議が遅れるといった次元の話ではない。

 仮に安倍首相が退陣を余儀なくされるような事態に陥った場合、日本が再び「1年ずつの首相交代」の時代に舞い戻るのではないか。そんな悪夢が彼らの胸の内にはある。
 その場合には「アベノミクス」といった明確なメッセージも聞かれなくなる。労働市場改革をはじめ抵抗の大きな政策課題への取り組みも、後退を余儀なくされる。対日投資のハシゴを外される前に、外国勢が日本株から撤退しているとしても不思議ではない。

 ただ、今のところ世論調査では、明白な安倍政権離れは起きていない。幸いにも、足元の日本の景気は上向いているし、企業収益も好調である。日銀も2%の物価目標の達成までは金融緩和を継続する姿勢を崩していない。

 政権が揺らぐ分、日銀への依存度は高まる。景気回復下で緩和効果が増大することで、後から振り返るとバブルの再来といわれる局面を迎えるかもしれない。果たして第1次安倍政権後のような長期低迷となるか、リクルート事件後のバブル相場の再来となるか。それとも今回は、大山鳴動してネズミ一匹となるのか。むろん歴史は同じようには繰り返さないのだが。

2017/3/28 5:30    日経新聞