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「振り向き」で知るアルツハイマー病の徴候

 アルツハイマー認知症アルツハイマー病)は根本的に治すことはできませんが、症状を改善し、進行を緩やかにすることはできます。その効果は早く治療を始めるほど大きいので、できるだけ早く発見したいものです。今回は、比較的早期に日常生活に現れるサイン「振り向き徴候」を紹介します。

 

認知症の6~7割を占めるアルツハイマー


 日本は、世界でも類を見ない超高齢社会に入りました。高齢者の増加に伴って認知症になる人が増え、予備群を含めると850万人を超えると言われています。
 認知症にはアルツハイマー認知症レビー小体型認知症、血管性認知症などの種類があります。そのうち6~7割程度を占めるアルツハイマー認知症は、残念ながらまだ根本的に治す方法がなく、現在は薬を使って症状を和らげ、進行を緩やかにしています。ですから、治療はできるだけ脳の障害が進行していない段階で始めて、その状態をなるべく長く維持したいのです。


・医療機関の受診自体がハードル


 そうするためには、認知症を早く発見しなければなりません。例えば親御さんがひどく忘れっぽくなったと感じた時、お子さんであるあなたが脳神経外科神経内科、精神科、あるいは「もの忘れ外来」などに連れて行けば、認知機能を調べる検査や脳の画像検査などで診断がつきますし、認知症であれば適切な治療が始められます。
 しかし現実には、親御さんには痛みなどの苦痛がなく、認知症を疑う気持ちもないでしょうから、医療機関に連れて行くこと自体が、高いハードルになっているようです。親御さんが抵抗を示されることもあるでしょうし、子の側に親が認知症であってほしくないという思いも働くでしょう。また、たいていの人は年をとるにつれて以前より忘れっぽくなります。自然な加齢現象としてのもの忘れと認知症による記憶障害は地続きですから、どの時点で認知症を疑えばいいのか、悩まれるのも無理はありません。


・「どうだったっけ?」と家族に答えを促す仕草


 しかし認知症の中でも、アルツハイマー認知症に関しては、受診の目安になるサインがあります。それが「振り向き徴候」と呼ばれる行動です。
 例えば、高齢の母親と娘が買い物に行ったとします。店員さんがお母さんに何か質問したのに、お母さんは答えずに後ろにいる娘さんを振り返って、「どうだったっけ?」とか「あなたが答えてよ」などと、娘さんに答えを促す……。これが振り向き徴候です。そんな場面に遭遇したことはないでしょうか。
 この振り向き徴候は、以前から認知症の人に見られる行動として知られていました。しかし、どの種類の認知症に見られるのか、頻度がどれくらいかはわかっていませんでした。


・重症度で変化する「振り向き徴候」の頻度


 それを私たちが調べて昨年(2015年)、報告しました。対象は、14年に東京都大田区の3医師会に所属する診療所で健診を受けた人のうち、認知症が疑われる人で、かつ同伴者がいた751人です。平均年齢は73歳でした。
 認知症かどうかは、「MMSE」という検査で調べました。これは認知症の診断に広く使われている質問形式の検査で、満点は30点。28点以上は認知症ではなく、27点以下を点数によって重症度を分けています。振り向き徴候が見られる頻度は、重症度によって大きな差が出ました。MMSEの結果が「軽度相当」の人では87.5%、「中等度相当」では97.7%と高い割合でに振り向き徴候が見られましたが、「重度相当」の人では42.5%と半減していました(グラフ参照)。

 これは、軽度~中等度では、自分が質問されていることやその内容がわかっているものの答えられないので同伴者に助けを求めているけれども、重度になると質問されていること自体がわからないようになってくるからだと思われます。
 一方、認知症予備群にあたる「MCI(軽度認知障害)」では14.1%でしたので、多くの人は自分で答えることができます。とはいえ、振り向き徴候が見られる人もいますから、サインに早く気づけばこの段階で治療を始めることもできるのです。


・サインに気づいたら詳しい検査を


 振り向き徴候は、その人がアルツハイマー認知症になりかけている可能性があるかどうか、医療関係者でない家族や周囲の人が、日常生活のなかで気づくことのできる有用なサインです。この言動が見られたら、早急に認知症を扱っている医療機関で詳しい検査を受け、アルツハイマー認知症と診断されたら治療に取り組んでください。薬物療法や脳のリハビリテーションを早くから受けることで進行の速度が抑えられ、それまでと変わりない生活ができる時間を延ばしてくれます。
 こういう早期発見法があることを知り、普段から親御さんや周囲の高齢者の言動に注意を払う人が増えることを願っています。【聞き手=医療ライター・竹本和代】

 工藤千秋 / くどうちあき脳神経外科クリニック院長

2016年11月15日    毎日新聞