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五輪費用「3兆円に膨張」なぜ 都チーム、会場移転言及

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東京五輪パラリンピック調整会議に臨む小池百合子都知事(左から3人目)と、大会組織委員会の森喜朗会長(右から3人目)、丸川珠代五輪担当相(同2人目)=29日午前、東京都千代田区、北村玲奈撮影

 小池百合子東京都知事の選んだ大学教授らのチームが、2020年東京五輪パラリンピックの総経費を「3兆円超の可能性」と示し、大幅な計画見直しを迫った。開幕まで4年を切った段階で、どこまで変更が可能なのか。波紋が広がっている。

 「きわめて客観的で、経営的手法での分析。全体像を見せてもらい、非常にわかりやすかった」。29日、小池知事は2020年東京五輪パラリンピックに関する調査チームの報告を聞き、そう話した。

 チームは、都顧問の上山信一・慶応大教授を中心に経営コンサルタントら8人がメンバーで、8月末から都や大会組織委員会の担当者らに面会するなどして調査してきた。上山氏は橋下徹氏の大阪府・市改革を支えた経験があり、小池知事が自ら選任。そのチームの結論が「大会総経費は3兆円を超える可能性がある」という内容だった。

 「2兆(丁)、3兆(丁)と、お豆腐屋さんじゃない」。7月の都知事選から、見えない総経費や増え続ける準備費用の見直しを主張した小池知事。上山氏もこの日、非効率な組織運営の結果、総経費が不透明になっている現状を「社長も財務部長もいない状態」と切り捨てた。

 これまで公表されてきた経費は、都が新たに造る7施設や組織委が担う仮設施設などの整備費計7640億円。招致活動で示した施設の本体工事費中心の予定額約7千億円を、すでに上回る額だった。

 調査チームは今回、施設整備費以外の大会開催時の輸送や安全対策、大会運営などの費用について独自に推計。ロンドン大会を参考に最大1兆6千億円と算出した。さらに、台風などの災害対策や関係機関の連携不足による非効率な予算見積もりなどを考慮すると、「このままでは総額が3兆円を超える恐れがある」とした。

 都の施設整備の進め方にも注文を付け、特に予算額の大きな3施設をやり玉にあげた。ボート・カヌー会場となる「海の森水上競技場」(予算491億円)については、大会後に見込まれる利用需要が見通せないうえに、維持管理費についても精査中という点を問題視。建設を中止し、宮城県など都外会場の使用も検討するように提言した。

 「大規模施設は一度造ると運営費が大きい。ずっとにぎわい続けるのでなければ、やめた方が都民の負担は小さい」と上山氏は言う。同じく都が建設を予定する水泳のアクアティクスセンター(同683億円)とバレーボールの有明アリーナ(同404億円)についても、需要の不透明さなどを理由に、規模縮小や仮設化の検討を求めた。さらに、組織委の収支見通しの甘さを指摘し、仮設会場についても「都や国、現地自治体による整備」に変更を検討するよう求めた。

 開催計画を根底から覆すような報告を追認するように、小池氏は都の担当局長らに「維持管理や運営費を考えると、施設が『負の遺産』になる可能性は非常に高い」と指摘した。都は今後1カ月程度で、競技団体や移転候補の自治体の考え、設計変更が可能かなどを検討し結果をまとめる。その後、小池氏が知事としての判断をする見通しだ。(松沢憲司、末崎毅)

■変更ならIOCと再交渉

 東京五輪パラリンピックの会場計画は何度も見直しを繰り返してきた。

 招致段階では33会場中28カ所を半径8キロ圏内に収める「世界一コンパクトな大会」を売りに、2013年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で開催権を勝ち取った。東京都負担の新設会場の整備費は1538億円の予定だった。

 ところが、資材高騰などで4584億円まで試算が膨らんだ。14年、当時の舛添要一知事はバドミントンなどの会場建設をやめて2千億円以上削ることに。都外の既存施設を代わりに使うとして、コンパクトさは失われた。この時も見直しを検討されながら、代替施設が無いとの理由で免れたのが、調査チームが今回、仮設や代替地の検討を求めた水泳などの3施設だ。

 会場は各国際競技団体が決め、最終的にIOCの承認が必要だ。この手続きを踏んで決定した計画の変更に言及されたことに関係者は反発する。大会組織委の森喜朗会長は「IOCの理事会、総会で決まったものをひっくり返すのは極めて難しい」と苦言を呈した。

 「海の森水上競技場」(ボート・カヌー)の代替候補地として、調査チームは宮城、埼玉、岐阜の3カ所を挙げたが、丸川珠代五輪担当相は「他の道府県に会場を持っていく場合、新たな負担が生じる可能性がある。誰がどのように負担をしていくのか考えていかないといけない」と懸念を示した。東京・晴海の選手村から通えない遠方地を会場にした場合、新たな宿泊施設の確保が必要になる。

 日本ボート協会の平岡英介理事によると、国際ボート連盟と共に複数の候補地を何度も視察し、開催の可否を検討したという。「そのうえで、海の森が最適と判断した。都議会の了解も取って基礎工事にも着工している。思いつきみたいにお金のことだけを言われるのは心外だ」

 ただ、近年は、規模が拡大し続ける五輪の開催経費が財政を圧迫するとして、招致を見送る都市も少なくない。24年夏季五輪の招致レースからは、米ボストンやローマが撤退を表明した。このためIOCは、五輪の持続可能性を重視し、14年末に中長期の改革計画「アジェンダ2020」を策定。開催都市の負担を減らすために、一部競技の他国開催までも認めた。

 小池知事が計画変更を決断した場合、各国際競技団体やIOCとの再交渉が必要となるが、知事が掲げる「賢い支出」はIOCが近年掲げる方向性に重なる。(清水寿之)

■輸送・警備費「最大1・6兆円」

 立候補時点で7千億円強と見込まれていた総費用がなぜ、「3兆円超」に膨らむのか。

 大会組織委員会の中村英正・企画財務局長は29日の記者会見で、さまざまな制約について説明した。

 まず、会場の建築工事については、本体工事部分だけを概算し、周辺の整備、設計などは計上していない。現在、491億円にまで膨らんだボート・カヌー会場が当初69億円と見積もられたのはその一例だ。

 また、招致レースを戦う上でライバル都市より突出した予算を見込むと市民から「無駄遣い」などの批判を浴びて支持率に影響しかねない。だから低めに設定されるのが招致の際の「常識」だという。

 最も膨らむ要素は、施設整備費以外のテロ対策や公共交通輸送などの経費について、招致時には細部まで検討していないためだ。2013年の立候補ファイルでは、警備費と見越していたのは100億円弱だけだった。

 だが、01年の米同時多発テロ後、五輪を標的にしたテロへの警戒から、開催国は警備費に巨額の予算を投じざるを得なくなっている。00年シドニーの1億8千万ドルから、04年アテネでは約15億ドルに急騰した。既存の監視システムが整備されていた12年ロンドンでも約6億ポンド(当時のレートで約9億ドル、円換算で約900億円)かかったとされる。

 サイバーテロなど新たな脅威にも備える必要がある東京は、100億円では足りない。ロンドンでも警備費は当初の2倍以上に膨らみ、総経費も当初の約8千億円から、約2兆1千億円まで増えた。

 都の調査チームは、施設整備などのハード費用を約7700億円とし、輸送や警備などの「ソフト経費」をロンドン五輪から推計して、最大1兆6千億円と見積もった。

 東京は過去最高の競技種目数となり参加者も増える。さらにロンドン以上に人口が過密で競技会場のエリアが広く、輸送や警備が難しい。地震対策や暑さ対策にも費用がかかるとみる。都の担当者は「ロンドンより経費が減る要素は見当たらない」。

 そのうえで、管理態勢が甘いままでは予算管理が甘くなり、調達コストが民間企業を上回るなどし、総費用が3兆円を超えるおそれがあると指摘した。「類推なので厳密な数字は出せない。3兆円にいく可能性があると結論づけ、それをどうするのかということが今回の検討の中心だった」と上山教授。

 一方、大会組織委の森喜朗会長は「テロ対策などは国の権威の問題」と話し、五輪の経費として算入すること自体に否定的な見解を示した。

 国や都、大会組織委は現在、実務者レベルでソフト面の協議を進めているが、三者の役割分担や経費はまだ決まっていない。ただ、大会組織委の決算が赤字になっても、IOCは責任を持たない。開催都市の東京都が背負い、さらには国が最終的な財政保証を負うことになる。(稲垣康介、吉浜織恵)

■都調査チーム報告のポイント

・予算管理が甘く、開催総費用が3兆円を超える可能性

・国、都、組織委員会の3者による準備態勢を改め、管理・責任を明確にすべきだ

・都が新設する7施設には見直しの余地がある。特に予算額の大きい3施設は都外への会場変更や既存施設の改修、活用を検討すべきだ

・都内の仮設施設整備(最大約1500億円)は都が全額負担すべきだ。

2016年9月30日07時05分    朝日新聞デジタル