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「貧困たたき」の背景は? NHK報道めぐりネット炎上

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NHK「貧困」報道を巡るネット上の書きこみ

 NHKの子どもの貧困に関する報道をめぐり、登場した高校生への中傷が、インターネットで広まった。「貧困たたき」といわれる風潮の背景には、何があるのか。

 発端は8月18日のNHK「ニュース7」。貧困問題を高校生らが話し合う神奈川県主催のイベントで、母子家庭の女子生徒が語る様子を取り上げた。自宅での取材も交え、冷房がないことや、パソコンを買うお金がないこと、進学をあきらめかけていることなどを伝えた。

 ところが放送後、「自宅にアニメグッズがたくさんあり、散財してる」「冷房みたいなものが映っていた」などの指摘が続々とネットに投稿された。女子生徒のものとされるツイッターの過去の投稿を元に、「何度も映画を見ている」「千円を超すランチを食べている」などと批判し、「貧困というのはNHKの捏造(ねつぞう)」と「炎上」した。

 片山さつき参院議員(自民)はツイッターに「節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょう」などと、NHKに説明を求めたと投稿した。ネットには学校や自宅をさらす書きこみも。県によると、実際に家の近くに人が来たり、嫌がらせの手紙が届いたりもしているという。

■NHK「放送内容は事実に基づく」

 放送内容に間違いはあったのか。NHKは取材に対し、「食べるものもないというレベルの貧困ではなくても、経済的困窮によって、高校生が希望する進路をあきらめざるをえない現実があることを伝えるもの。放送内容は、すべて事実に基づくものです」とのコメントを出した。

 「サイゾー」(東京都)が運営するニュースサイト「ビジネスジャーナル」も8月25日、「NHKがまたやらせ問題で揺れている」とする記事を配信したが、31日に事実誤認があったとして謝罪。「女子高生の部屋にはエアコンらしきものがしっかり映っている」と書いたものの実際には確認できず、NHKに対する取材の回答も架空のものだったという。

 ログイン前の続きネットでは、貧困たたきへの抗議の声も広がり、8月下旬には各地で抗議デモもあった。

■見えにくい「相対的貧困」

 今回の問題で見えてくるのは、「貧困」を巡る認識の違いだ。飢餓状態にあるような「絶対的貧困」に対し、先進国で問題となっているのが「相対的貧困」。年間の所得が真ん中の人の半分(2012年は約122万円)に満たない家庭を指し、子どもの6人に1人が貧困状態とされる。

 貧困世帯の子どもの支援に取り組むNPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長は、「子どもたちはいじめの対象にならないよう、スマートフォンを持ったり、見た目に気を配ったりと、必死で『普通』を装っており、相対的貧困は問題が見えにくい」と指摘する。

 女子生徒が参加したイベントも相対的貧困について当事者以外も共に考え、同世代ならではの支援につなげる狙いがあった。イベントで発言した大学生、相馬美季さん(18)も以前、貧困家庭で育った体験がテレビで取り上げられてネットで批判されたことがある。今回も発言するかどうか直前まで悩んだという。

 「文化的な生活とは何かなど、『貧困観』の違いがあるのは当然で、議論のきっかけになるなら意味がある。でも、今回は個人攻撃で、明らかに行きすぎ」。ただ、報道にも疑問を持った。「イベントの趣旨ではなく、こんな高校生がいる、と個人の体験を強調し、相対的貧困の問題が伝わりづらいと感じた。貧困以外の問題もからんでいるのに、混同して伝わり、違和感を覚えた人もいたのでは。見えにくいからこそ、慎重に伝えてほしかった」

■「貧困たたき」先進国に共通する現象

 ネットでは以前から、生活保護受給者へのバッシングなどが起きている。英国でも14年、福祉手当受給者のドキュメンタリー番組が「貧困ポルノ」と批判を浴び、出演者がネット上で非難され、殺害予告を受ける騒ぎに発展した。

 日本のメディアにも詳しい英国人のティナ・バレット上智大准教授(政治学)は「貧困たたきは、低成長の中で格差が拡大する先進国に共通する現象。人々の生活不安が増し、公的支援を受ける貧困層を『税金の浪費』と攻撃する風潮が強まっている。長らく平等な社会とされてきた日本も例外ではない」と指摘。「塾通いや進学ができない相対的貧困は世代を超えて連鎖する深刻な問題。実態をメディアがきちんと伝え、社会が貧困への認識を深めることが大切だ」と話す。(仲村和代、伊東和貴)

2016年9月14日07時04分    朝日新聞デジタル