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突然の濁流、みるみる浸水…高齢者施設の所長証言 岩手

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グループホーム「楽ん楽ん」の前で、手を合わせる職員ら。盛岡市にある広宣寺の副住職・柴崎肇廣(じょうこう)さんが親戚の職員を訪ね、亡くなった入所者を悼んで読経した。柴崎さんは「1週間前にも遊びに来たが、目の前の川はちょろちょろと流れる小川のようだった。水害が起こったことが信じられない」=2日午後、岩手県岩泉町、林敏行撮影

 入所者9人が亡くなった岩手県岩泉町の高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」の被災当時の状況が明らかになってきた。内部の写真からは、天井近くまで浸水していたことがうかがえる。1人だけ生き残った職員は「玄関に水が見えた後、ドアが破壊され、大量の水が一気に入ってきた」と説明したという。

 佐藤弘明事務局長(53)が、施設内で一夜を明かした女性所長に当時の状況を聞き取り、報道陣の取材に明らかにした。

 「玄関付近に水が上がってきたみたいだよ」

 8月30日午後6時10分ごろ、所長は入所者の女性に声をかけられ、すぐにバスタオルで玄関をふさごうとした。応援を要請しようと同じ敷地内の介護老人保健施設「ふれんどりー岩泉」に内線電話をかけたが通じない。「これは危険だ」。9室ある各自の居室ベッドの上に入所者を誘導した。

 「ふれんどりー」に携帯電話をかけたが「圏外」。浸水はみるみる進み、部屋から出てきた男性入所者を高さ約45センチの小上がりに誘導した。その後、大きい音がして正面玄関に濁流が押し寄せ、ドアが壊れて大量の水が入ってきた。男性に柱をつかませたが、その間も水位は増していった。

 ログイン前の続き真っ暗な中、「ふれんどりー」の3階に揺れる明かりが見えた。「おーい」と助けを呼び、男性も声をあげたが、濁流の音でかき消された。「ふれんどりー」の所長が安否確認のために照らした懐中電灯だったが、所長は当時、「すぐそばに救援隊が来ているのか」と思ったという。

 その間も水位は上昇を続け、約2メートルに達した。小上がりに立ちながら、片手で男性を抱きかかえ、顔の近くまで水が増えてきたため、もう片方の手で男性のあごを上げて呼吸ができるようにした。だが男性は衰弱し、息絶えた。所長はショックでその場を動けず、翌31日午前5時ごろ、男性のそばに座っているところを発見された。「利用者に本当に申し訳ない。家族の方々にもつらい思いをさせて申し訳なかった」。所長はそう話したという。

 2日に施設内部で撮影された写真には、濁流の激しい爪痕が写っていた。泥まみれになった居室の畳は浮き上がり、壁には天井近くまで水が迫ったことを示す泥の線が残っていた。リビングダイニングとみられる部屋には一面に泥が積もり、ひっくり返った冷蔵庫や椅子、インスタントコーヒーの容器が転がっていた。壁の時計は7時45分で止まっていた。

■遺族ら、突然の死を悼む

 岩手県災害対策本部は2日、岩泉町の高齢者グループホーム「楽ん楽ん」の犠牲者9人のうち7人の氏名を公表した。遺族らは突然の死を悼み、悔やんだ。

 佐々木悦子さん(88)は2011年から入居していた。「明るすぎるくらいの母でした」。町内に住む長女(63)はそう話す。週に1度ほど施設に見舞い、水害当日の8月30日の午前中に訪ねたときも元気だった。10~20分ほどおしゃべりをしたのが最後になった。近所の住民は「とっても朗らかでユーモアがあり、周りを笑顔にする人でした」と惜しんだ。

 畑中ソメさん(82)は歌番組が大好きで、よく民謡を歌っていたという。消防団員になって33年になるという長男の芳信さん(60)は「天災です。誰のせいでもない」と語る。

 八重樫チヤさん(95)は認知症が進み、1人で歩くのは困難だったという。長男で埼玉県在住の写真家、信之さん(72)は「母も介添えの人がいてようやく歩ける程度だった。大雨の中をお年寄りが短時間で避難するのは現実的でない。事前に退避できなかったのか」と悔やんだ。

 三浦敦子さん(79)と生まれた家が隣同士で、姉妹のように育ったという友人の箱石郁子さん(84)は「優しくて美人で料理も上手でした」と話した。近所の住民によると、三浦さんはバレーボールの会に入ったり、民宿を営んだりしたこともあった。「災害に負けないくらいのパワフルな人でした」と残念がった。

北海道で2人の遺体

 北海道では、崩落した橋から車ごと川に転落した男性2人の遺体が2日、見つかった。

 新得町の小笹義夫さん(73)が川に転落したのは8月31日未明。川の状況を見に来た町職員が橋の付け根部分の崩落に気づき、対岸から来た車に危険を知らせようと車のヘッドライトで照らすなどして合図を送った。1台目は気づいて引き返したが、続いて来た小笹さんの車は転落した。

 この橋は小笹さんが住む地区と町中心部とをつなぐ唯一の道。当時、雨で水かさが増していた。

 小笹さんは町内の保育園や小学校、老人ホームなどで用務員として定年まで勤務。面倒見の良い人柄で、町内会の花見では率先して幹事役を引き受けていたという。小笹さんの友人の岩木輝年さん(76)は、「あんなに川が増水していたのに、どうして渡ってしまったのか」と話した。

 大樹町で見つかった音更(おとふけ)町の会社員鈴木洋平さん(28)は地元の建設コンサルタント会社で、河川の流量などを調査する仕事を担当していた。同社によると、事故当日も周辺の川の流量調査で移動中だった。礼儀正しく、まじめな仕事ぶりだったという。

     ◇

 亡くなったのは次の方々。

 【岩手県発表】

 《久慈市》中塚スヂイ(89)

 《岩泉町》岩舘五郎(76)▽佐々木悦子(88)▽千葉繁喜(77)▽中屋敷チエ(85)▽畑中ソメ(82)▽曲澤(まがさわ)アサヱ(84)▽三浦敦子(79)▽八重樫チヤ(95)

 【北海道発表】

 《新得町》小笹義夫(73)

 《音更町鈴木洋平(28)

(敬称略、2日までに身元が確認された人)

2016年9月2日23時32分 朝日新聞デジタル

 

 

腕の中で弱る男性 唯一生存の岩手のホーム所長証言

 入所者9人が亡くなった高齢者グループホーム「楽ん楽ん」で唯一助かった佐々木千代子所長の証言を2日、運営法人の佐藤弘明常務理事が報道陣に語った。

 「玄関まで水が上がってきたみたい」。8月30日午後6時10分ごろ、佐々木所長は女性入所者の話で異常に気付いた。水が入らないよう玄関をふさぎ、隣接する高齢者施設に内線電話をかけたが回線は不通だった。

 「これは危険だ」。入所者9人を少しでも高い所に上げようと、それぞれの個室のベッドに誘導。携帯電話の電波は圏外で、じわりじわりと床から浸水してくるが、平屋のため逃げ場もない。

 しばらくして、男性が不安を訴え部屋から出てきた。「ここにつかまって」。床から45センチほどの畳敷きの小上がりに一緒に上がり、柱につかまった。数分後、ドーンと大きな音と同時に玄関ドアが割れ、濁流が一気に流れ込んだ。

 水は、あっという間に2人の胸の高さを超えた。所長は男性の両腕を柱に回し、自分は左手で柱を抱え、右手は男性の口が水に漬からないよう顎を支え続けた。壁に片足を伸ばして自分も流されないようにこらえた。

 「頑張って」。暗闇の中、水流と闘いながら励まし続けたが、腕の中の男性は徐々に弱っていく。いつしか呼び掛けにも答えなくなった。

 佐々木所長は朝になるまでに、隣の施設の3階ベランダから何度か懐中電灯でホーム内が照らされるのを見たという。だが水流が激しく助けは来なかった。

 31日午前5時ごろ、佐藤常務理事がホームにたどり着くと、中には男性を抱えたままの所長の姿があった。「入所者につらい思いをさせた。申し訳ない」。やつれきった表情で謝罪の言葉を繰り返した。〔共同〕

2016/9/2 23:59 日経新聞

 

 

9人死亡の施設、「避難準備情報」意味理解せず

 台風10号による豪雨で河川が氾濫し、入所者9人が亡くなった岩手県岩泉町乙茂おとも認知症グループホーム楽ん楽んらら」で、施設の運営団体の責任者や職員が、町が発令した「避難準備情報」の意味を理解せず、「避難勧告」が出てから入所者を避難させようとしていたことがわかった。

 避難準備情報は、高齢者など自力で避難するのが困難な人が避難を始める基準になる。町は、台風が近づいていた8月30日午前9時に発令した。

 施設関係者によると、運営団体の職員は、施設の前を流れる小本川の河川敷に土のうを積むなどしたが、平屋のグループホームに入所している9人を避難させなかった。

 施設では年2回、火災を想定してグループホームの入所者を施設の駐車場に移動させる訓練を実施していたが、水害に関する避難マニュアルは作成していなかった。

2016年09月02日 13時59分  Copyright © The Yomiuri Shimbun