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「生前退位」実現で皇室は新たな危機に? 元宮内庁職員が警告

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生前退位が実現することで、皇室がさらされる新たな危機とは? (c)朝日新聞社

 13日にNHKが報道した天皇陛下の「生前退位」の意向は、国民に大きな衝撃を与えた。現状では「憲法上の問題から(皇室典範改正を伴う)生前退位は無理だ」(官邸の政権幹部)ということだが、もし実現すれば、安倍政権、そして天皇の在り方にも影響を及ぼす。

 首相官邸天皇陛下の意向を尊重し、典範改正など必要な法整備に向けて検討を始め、来年の通常国会で必要な法改正を目指す方針との情報も出ている。宮内庁幹部は「政権との調整がこれから始まるタイミングだっただけに、うまくいかないおそれもある」と話す。政治部記者が言う。

参院選の勝利で地盤が固まった安倍政権としては、緊急事態条項を含む憲法改正に向けて議論を始めたい。より安定した政治環境をつくろうと、年末までに衆院の解散・総選挙に打って出る可能性もある。現政権は、女性宮家創設を含む皇室典範の改正に消極的で、どの程度進むのかは不透明です」

 第2次安倍政権が発足して3年半が経過したが、皇室の制度改革は進まなかった。政治的なエネルギーを要する典範改正に着手すれば、憲法改正が吹き飛ぶとの懸念があるのか。逆に、官邸情報に強いNHKがスクープしたことで、政権が典範改正を突破口に、憲法改正への機運を盛り上げるとの疑念が野党側に広がる。

 仮に、幾つものハードルを乗り越えて、「生前退位」を含む典範改正が実現したとする。そのとき、皇室は新たな危機にさらされると、元宮内庁職員の山下晋司氏が警告する。

「平成の象徴天皇としてふさわしい働きができない、という理由で生前退位を認めたとしましょう。そして、徳仁天皇と雅子新皇后の仕事ぶりが国民の期待に応えないもので、『象徴天皇としてふさわしいものではない』と評価された場合、次に『ふさわしい』秋篠宮殿下に譲位しろとの声が起きかねない」

 旧皇室典範は1889(明治22)年に、大日本帝国憲法と時を同じくして制定された。元勲・伊藤博文らは、天皇が随意にその位を退かれるのはもってのほかと論じ、天皇の終身在位の仕組みを作った。それは、天皇が政治的な思惑で「退位」に追い込まれたり、退位した天皇上皇として権力を振るう危険性を排除するためである。国民の感情で判断する余地が生まれれば、究極には天皇の人気投票につながりかねないと、山下氏は危惧する。

天皇陛下がご高齢で働かされてお気の毒」「早く退位の制度を整えてお休みになって」

 天皇の「生前退位」報道が出ると、感傷的な声がテレビ画面や新聞の紙面を覆った。だが、皇室制度の根幹をかきまわすような事態は避けるべきであろう。

 1987年から87歳で崩御するまでの1年4カ月間、昭和天皇は病に倒れていたが、摂政は置かれなかった。いまの天皇陛下と、皇太子さまが国事行為を昭和天皇に代わり臨時代行した。摂政は、天皇が精神的・身体的に機能していないことが前提だ。あるジャーナリストはこう解説する。

「それは、周囲が天皇陛下は、たとえ何もできないとしても、在位してくださるだけでいい、それこそが国民の敬愛にかなうのだ、と昭和天皇へ伝え続けたためです。ところが今回は、天皇陛下が、『高齢で象徴天皇として十分に仕事ができない』という話が漏れ聞こえたとたん、『お疲れ様』の大合唱が始まった。まるで『蛍の光』を大音量で流して、舞台から強制退場させているふうにすら感じる。それはご本人の思いとはすれ違うような気もする」

 天皇公務のさらなる軽減や、皇太子ご夫妻への大幅な仕事の引き継ぎなど、可能な範囲で対応できないのだろうか。平成の天皇が、魂を注ぎ込むように築き上げた象徴天皇と、二人三脚で歩んできた皇后の姿を、国民はもう少し見ていたいと感じているのではないだろうか。

週刊朝日 2016年7月29日号より抜粋

 

 

天皇陛下「生前退位」報道、新聞を比較して自分の見立てを整理する

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14日朝刊、上段左から毎日、朝日、産経、下段左から読売、東京、日経

NHKの「スクープ」で始まった天皇陛下の「生前退位」報道、ソーシャルメディアでも様々な反応が発信されています。多様な意見を見えるのは良い点ですが、弱点もあります。ソーシャルメディアの性質として俯瞰的に読み比べることは非常に難しく、一つの記事がシェアされて議論が進むことで、別の視点から書かれた記事が読めないまま偏ってニュースを受け取ってしまう、いわゆるフィルダーバブル問題が起きがちです。ヤフーニュースも最近は関連リンクを絞っており、多様な記事を比較することは難しい状況です。

関心が高いニュースをより深く理解するために、新聞やテレビ報道を比較し、記事の扱い(どのくらいの大きさか、何面で展開されているか)、見出し、内容などの異なる点を洗い出し、ニュースを俯瞰的に捉えて自分なりの見立てを整理してみることが大切です。近くのコンビニで毎日、朝日、産経、読売、東京、日経(順不同)を購入したので、少しポイントを整理します。

記事の扱い:各紙大きく展開、取材準備を伺わせる

毎日:『天皇陛下「生前退位」意向』『数年内に譲位 「お気持ち」表明へ』(1面、2面、3面、社会面、社説)

朝日:『天皇陛下生前退位の意向』『皇后さまと皇太子さまに伝える 皇室典範の改正課題に』(1面、2面、3面、11面、39面)

産経:『天皇陛下「生前退位」』『ご意向 数年内に 政府皇室典範改正検討へ』(1面、2面、3面、27面)

読売:『天皇陛下生前退位の意向』『政府、ご負担を配慮 皇室典範改正など検討』(1面、3面、38面、39面)

東京:『天皇陛下生前退位の意向』『1年前から示す 皇室典範改正に数年』(1面、2面、3面、30面、31面、社説)

日経:『天皇陛下退位の意向』『宮内庁、近く公表へ 皇室典範改正必要に』(1面、2面、3面、7面、社会面)

各紙大きく展開しています。制度面の課題、専門家・識者のコメント、国内外の反応などを幅広く押さえており、夜19時にNHKがスクープしてから取材がスタートしたのではなく各社が取材を進めていたことを伺わせます。

分かれているのは時期で、NHK「生前退位」意向示されたのは5年ほど前と報じていましたが、東京は1年前、産経は少なくとも1年以上前、日経は数年前と書いてあります。

宮内庁の反応:否定は共通「拙速な議論を忌避」などの背景

毎日:見出しなし。1面本記内に「宮内庁はこれまで、生前退位に否定的な考えを示している」という方針の説明。

朝日:『宮内庁次長は否定』(1面1段)。山本信一郎次長のコメント「報道されたような事実は一切ない」「(天皇陛下は)制度的なことについては憲法上のお立場からお話をこれまで差し控えてこられた」。

産経:『宮内庁憲法上、言及されぬ」』(1面3段)。山本信一郎次長のコメント「そのような事実は一切ない」「陛下は制度的なことについては憲法上の立場から話すことを控えられてきた。今後も一貫して同じご姿勢だ」。

読売:『制度上「退位」認めず』(1面2段)。宮内庁の方針を説明。1面本記内に山本信一郎次長のコメント「天皇陛下が『生前退位』の意向を宮内庁関係者に伝えているという事実は一切ない。そうした前提で今後の対応を検討していることもない」。

東京:見出しなし。1面本記内に山本信一郎次長のコメント「そのような事実は一切ない。陛下は制度的なことについては憲法上の立場から話すことを控えてきた。今後も一貫して同じ姿勢」。

日経:見出しなし。1面本記内に山本信一郎次長のコメント「陛下が『生前退位』について宮内庁関係者に伝えられたという事実は一切ない。公的な立場にある陛下が皇室制度について(周囲)にはなされているということはない」。

各社の報道は、宮内庁が否定的な姿勢であることを伝えています。しかし、日経には「同庁で内々に検討を進めていたという」(1面)、産経は「宮内庁サイドが拙速な議論を忌避している実態があるとみられる」(3面)、毎日は「政府は、参院選後のいずれかのタイミングで宮内庁側が退位に関して何らかの表明をした後、検討を具体化する方針だった」(1面)と解説しています。

政府の動き:「極秘」「水面下」で皇室典範改正を検討

昨日の速報ではあまり出ていなかった気がする政府の動きもカバーされています。興味深いのは、毎日と読売が政府がチームをつくり「極秘」「水面下」で皇室典範の改正の検討を進めていると書いてあるところです。

毎日:『来年にも法整備 政府検討』(1面3段)。首相官邸で事務方トップの杉田官房副長官(警察庁出身)の下に極秘チームを儲けて皇室典範に関する検討を進めている。内容は極秘で極めて限られた人しか知らない。

朝日:政権内で有識者会議の設置などが改めて検討される可能性もある(2面)。

産経:政府内では今後皇室典範改正の議論に着手する見通し(3面)。

読売:『「担当チーム」が準備開始』(1面3段)。政府が担当チームをつくって水面下で必要な法整備の検討を行っている。

東京:政府が有識者会議などで議論を進め、結論が出るには数年かかるとみられる(1面)

日経:有識者会合で議論することになり、内閣官房にある皇室典範改正準備室が事務局になるだろう(3面)

ニュースソース:宮内庁関係者と政府関係者に分かれる

記事を書くにあたりどこから情報を得たのか。いわゆる「ニュースソース」を比べると、宮内庁関係者と政府関係者に分かれています。なお、NHKは「内庁の関係者に示されていることが分かりました」と産経はニュースソースを明確にしていません。

毎日:政府関係者への取材で分かった(1面)

朝日:宮内庁関係者への取材でわかった(1面)

産経:ニュースソースを明確にせず

読売:宮内庁関係者の話でわかった(1面)

東京:政府関係者への取材で分かった(1面)

日経:宮内庁関係者の話で明らかになった(1面)

読み比べて、理解を深め、見立てを整理する

話題になっているポイントを紹介しましたが、各紙には、皇室典範の解説、天皇陛下のこれまでの活動、専門家・識者のコメント、などこのニュースに関して理解を深める記事がたくさん掲載されています。また、整理はあくまで筆者なりの仕方なので、各自購入したり、ぜひ職場や学校などで読み比べたりして、見立てを整理してみてください。なお、見出しなどは地域や版で異なる場合があります。


藤代裕之ジャーナリスト

広島大学卒。徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。教育、研究活動を行う傍らジャーナリスト活動を行う。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員

2016年7月14日 10時13分配信